2019年10月9日 に行われた「毎月公開学習会」のテーマは
「就業規則と労働条件」でした。
講師は横浜地区労の顧問弁護士事務所である横浜合同法律事務所の 徳永 吉彦弁護士です。
横浜地区労は、毎月第2水曜日の夜。公開学習会を開催しています。
どなたでも参加できますのでぜひご参加ください。
※参加希望の方は事前にご連絡をお願いします。
次回のお知らせ
日時:2019年11月13日(水)19時30分~20時30分
テーマ:横浜のカジノ誘致はなにが問題なのか
講師:横浜カジノ誘致反対連絡会事務局長 菅野隆雄さん
会場:平和と労働会館4階会議室
以下、10月9日の「就業規則と労働条件」のレジュメをご紹介します。
(事務局で加筆修正あり)
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第1 就業規則について
1 就業規則とは
⑴ 意義
労働条件等を明確化し使用者による恣意的な運用を防ぐこと
使用者が当該事業場において定める服務規律や労働条件に関する規則類をいい、
名称の如何を問わない。
⑵ 作成・届出義務
常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は、労基法 89 条に掲げる事項について
就業規則を作成し、行政官庁(労基署)に届け出なければならない(同法 89 条本文
後段) 。
同法 89 条に掲げる事項を変更した場合においても同様(同法 89 条本文後段、労
基則 49 条 1 項) 。
⑶ 必要記載事項
89 条 1 号~10 号については、記載しなければならない。
一部でも記載がないと作成義務の違反が成立する。
⑷ 労働者の意見聴取義務
作成及び変更については、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合が
ある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
においては労働者の過半数を代表する者」の意見を聴かなければならない(90 条 1
項)。
使用者は、作成または変更を届け出る際、意見を記した書面を添付しなければなら
ない(同条 2 項) 。
※共同決定権に至っていないのはもちろん協議権にも至っていない。
⑸ 周知義務
使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付ける
こと、書面を交付すること、またはコンピューターを使用した方法によって、労働者
に周知させなければならない(106 条 1 項、労基則 52 条の 2)。
2 就業規則の効力
⑴ 就業規則の最低基準効
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分につい
ては、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則の定める基準
による。」(労契法 12 条)
最低基準効が生じる就業規則は、当該事業場の労働条件の基準を定めた規則とし
て実質的に周知されているものであり、届出や意見聴取は不要。
⑵ 労働契約規律効
ア 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働
条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の
内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約にお
いて、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分
については、…[就業規則の最低基準効が働く場合を除き]…この限りでない(労契
法 7 条) 。
イ 労働契約規律効の要件
①周知(知りうる状態にあればいい)
②合理性(必要性があり、労働者の権利利益を不相当に制限していないか)
3 労働契約の変更における就業規則の労働契約規律効
使用者による一方的不利益変更は原則として許されないが、変更に合理性が認め
られれば反対労働者をも拘束する。
⑵ 労契法で法定
8 条:労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変
更することができる。
9 条:使用者は、労働者と合意うることなく、就業規則を変更することにより、労
働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
10 条:就業規則の変更が…合理的なものであるときは、この限りでなく、労働契約
の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる。
⑶ 合理性の判断要素と判断手法
第四銀行判決(最二小判平9・2・28) 労契法 10 条
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容
の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らし
て合理的なものであるとき(労契法 10 条)
⑷ 合理的変更の手続的要件
合理性のほかに手続要件として「周知」が必要(労契法 10 条)
事業場の労働者集団に対し変更内容を知りうる状態におくという周知で足り、変
更内容を個別的に認識させることではない。
このほか、届出と過半数組織組合ないし過半数代表者の意見聴取が必要(労契法 11
条)。
→合理性判断におけるプラスの材料(「その他の就業規則の変更に係る事情」 )
⑸ 就業規則が法令・労働協約に反する場合
就業規則が法令または労働協約に反する場合には、当該反する部分については、就
業規則の労働契約規律効(7 条)、合理的変更の労働契約規律効(10 条)および就業
規則の最低基準効(12 条)は適用しない(13 条) 。
4 裁判例
経営環境に対処しての就業規則の不利益変更の判断事例
⑴ 7つの農業組織の合併に際して、元の一組織の退職金支給倍率を引き下げて他の
6組織のそれへ統一した事案(大曲市農業協同組合事件-最三小判昭和 63・2・16) 。
→当該労働者らの給与額は合併に伴い相当程度増額され、この増額分それ自体お
よびその賞与・退職金への反映分を合計すると支給倍率低減による退職金の減額
分をほぼ補ってしまうこと、合併による新組織においては退職金を旧6組織の方
に合わせて統一する必要性が高かったこと、また合併により当該労働者らは、休日、
休暇、諸手当、定年等の面でより有利な取扱いをうけるようになったこと等から変
更の合理性あり。
⑵ 地方銀行において、定年を 55 歳(58 歳までは通例再雇用)から 60 歳に延長する
に際して、55 歳以降の給与と賞与を削減した(削減幅は、55 歳から 60 歳までの合
計賃金額が旧定年制下で再雇用された場合の 55 歳から 58 歳までの合計賃金額とほ
ぼ同額となるというものであった)事案(第四銀行事件-最二小判平 9・2・28)
→行員高齢化の状況、賃金制度改正の内容、改正後の賃金水準を他の地方銀行と比
較して検討し、かつ行員の大多数の組合との交渉・合意を勘案して、合理性あり。
経営危機の克服策として、合併後不統一となっていた 55 歳・63 歳の定年を 57 歳
とし、60 歳までは賃金を 6 割に下げて再雇用すること、退職金支給率を勤続 30 年で
70 か月から 51 ヶ月とすることとした就業規則改正において、発効時 57 歳であった
者(経過措置として、62 歳まで再雇用、退職金は勤続 30 年で 61 ヶ月分)の退職金
減額につき、不利益性が大きすぎるとして一定限度で合理性なし。
⑷ シオン学園事件(東京高判平 26・2・26)
自動車教習所が入所生の大幅な減少傾向により構造的赤字経営となり、組合と交
渉を重ねた末、基本給の額を 22 万 9200 円から 19 万 4200 円に引き下げ、勤続給、
技術給、年齢給を廃止し、給与規定上の教習手当を時間当たり単価に改める給与規定
改定をして労基署に届け出た。この変更が変更の必要性、不利益の程度、内容の相当
性、組合との交渉経緯(減額割合は平均8.1%で、同一職務の他の種類の社員より
なお3~4万円高く、県内の他教習所に比しても定額とはいえない)等を総合すると
合理性あり。
第2 就業規則がからんだ例 (オフレコ)
1 事案
(オフレコ)
2 求めた内容
(オフレコ)
3 争点
(オフレコ)
4 今後に生かすこと(立証の困難さをどう乗り越えるか)
⑴ 過去の記録を残す(どういう経緯でどの内容を就業規則として提出したのか)
⑵ 合意の客観的な明確さ(どの内容で合意したのか)
⑶ 合意の種類はどんなものがあるのか(就業規則、労働協約・・・)
⑷ 労働者の団結を守るために(組合分裂、組合差別)
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